ツーリングレポート 「無何有の郷」

H151027 −茜色に住む−

●しじま
 イグニッションを切ると、葉の舞う音さえ
聞こえる静寂の中だった。
 郡上街道の走りやすいバイパスをわざとは
ずれ、葛織りの、枯れ葉に埋もれた車一台が
やっと通るほどの旧道を、ブレーキレバーに
しがみつきながら、たどり着くと、坂本峠だ。
 ヘルメットから首を抜き、木の葉に染まり
そうな空気を呼吸すると、胸の奥が"浸"となっ
た。
●冬神の聖域
 神の聖域は広大に拡大していた。
 郡上八幡からさらに上空域、飛弾さざなみ
街道を昇り行くと、北アルプスの美しい冬神
の吐息は、飛弾清美一帯までを、この世のも
のでは無くしていた。
 ため息をつくために何度も立ち止まった。
●秋、行く
 センターラインが白くなる。
 数台の車をかわし、緩い右コーナーをアウト
・インで抜けると、遥かに見渡す道に車影はな
い。
 フルスロットルをくれると風景は一瞬にして
シールドの向こうに溶け、茜色の奔流となる。
 どこまでも続く飛弾の大地を紅のZX10e
は馳る。
“我ヒトリ 茜色ニ住ム 誰カアランヤ”
小生の45回目の秋は、過ぎようとしていた。